大映制作「十代の性典」三部作
YouTubeに1953年制作の映画「十代の性典」三部作が落ちていたので3本まとめて見ました。
かえるちゃんは映画が好きではあるんですけれど、満遍なく見ているわけでもなく、大映の映画はほとんど見ていないんです。
溝口健二の遺作「赤線地帯」を見た覚えがあるくらいで、こちらも時代劇ではないから見た、って感じなんです。
1956年の「赤線地帯」で売れっ子売笑婦から貸し布団屋の女将さんにまでのし上がる若尾文子は1953年の「十代の性典」では女学生だったわけで、新制高等学校を卒業して僅か3年で、は?淫売だったわけー?
女の人生の消費スピードが早過ぎるだろう。
と感心しました。
若尾文子は「十代の性典」がヒットしたので「性典女優」と呼ばれて結構小バカにされていたみたいなんですが、同じ1953年の溝口健二「祇園囃子」に出演が決まり、ミゾケンさんに厳しく仕込まれて見違えるように演技が上達したみたいなんですが、天真爛漫なお芝居はそれなりにキュートでした。
同格で出ている南田洋子(大映の女優さんとは知りませんでした)が簡単に言っちゃうとヤラレっぱなしで良い思いをしていないので、大映としては若尾文子一択だったんだと思います。
南田洋子は日活に移籍して良かったですよ。
まぁ、日活でも「太陽族女優」になってしまうんですけれど。
観客のニーズが映画を作るんだと思うので、三部作となってしまった「十代の性典」なんですが、映画としての完成度は「続十代の性典」が一番高かったように思います。
あとの2作は別にわざわざ見るほどでもないかなって感想です。
それぞれの感想を書いていきたいと思います。
十代の性典
大映制作1953年。
わりと裕福なご家庭の女学生役設定で出ている若尾文子が、まだ頬がプックリしていてあどけないかわいらしさです。
系統としてはデビュー時の浅丘ルリ子のような、品のいいかわいらしさです。
上級生のかおるさんとおそらく「エス」な関係です。
エスと言うのは戦前の女学校からあった女子校文化で、上級生と下級生が一対一で疑似恋愛関係になることなんです。
この辺の事情は川端康成や吉屋信子の少女小説、中原淳一の雑誌なんかでyp億取り上げられています。
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手を繋いだり一緒に下校したりする程度の関係なんですが、若尾文子の部屋には「お姉さま」と一緒に写した写真がたくさんあって、いくらなんでもあり過ぎだろう、お母さんが訝しく思うぞとハラハラしました。
お姉さまにどうも彼氏の影があることに若尾文子はキレて、自室で大暴れするんですけれど、その暴れ方がかわいいんです。
若尾文子は「情念」が漂っているおしとやかな女優さんだとばかり思っていましたが、本質は活発な方なのかも知れません。
暴れてテヘペロしてかわいさ大爆発なんです。
ちょっとお姉さま役の女優さんがどなたなのか確定できませんでしたが、この方めちゃくちゃ汚れ役で、登場時間は長いんですが、スケートに行って山小屋で彼氏の前で服を脱がざるを得なくなって、ブラジャー(当時っぽく言うと乳バンド)一丁で、谷間をクローズアップされるお色気要員で、彼氏に襲われそうになって雪の中を乳バンド一丁でさまよった挙句に自殺してしまうメンヘラ気質の役なんです。
まぁ「性典」と言うくらいだから性的な描写も多少アリかとは思っていましたが、大映の姿勢はとにかく若尾文子一択で、汚れ役は売り出す予定のない女優にさせとけってスタンスを感じてあからさま過ぎるのに引きました。
南田洋子は若尾文子の同級生役なんですが、月経時の体調不良のために魔がさして若尾文子のお財布を盗んでしまいます。
そのこともあっておうちに居場所をなくして、魚屋の娘さんの口利きでおでん屋さんみたいなところで働くことになるんですが、後半は出てこないので万引き要員ですね。
お姉さまと彼氏を含めた画学生の男女グループが長野方面と思うんですけれどスケート旅行に行くんですけれど、中に19歳設定で愛人業をやっている不良女子がいて、この子のキャラが渡辺淳一の私小説「阿寒に果つ」のモデルとなった加清純子さんとおっしゃる北海道ローカルでは有名な画家のお嬢さんに近いのかなと思いました。
加清純子さんが自殺なさったのも1952年ですから、当時の雰囲気はありますね。
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渡辺淳一はただのエロジジイと思っていましたが、この小説はエキセントリックで早熟な女学生に振り回される純な学生さんって感じでわりと好きです。
雪の中を失踪したお姉さまを探してたくさんの旅客が彼女を探すんですが、全員がタイマツを掲げているのに驚きでした。
山火事の心配があるでしょう。
火だよ、生の火。
あと、どうもこの話の舞台は東京だったようなんですが、とても背景が美しかったので、どこかでロケをしていたと思います。
立派な神社や五重の塔みたいなものが背景になっているシーンがありました。
東京タワーではなかったです。
続十代の性典
同じく1953年大映映画。
三部作の中では一番ちゃんとしたドラマになっていたので、これだけ見ておけばいいかなとも思います。
若尾文子がやはり裕福な家庭のお嬢さんで、どのくらい裕福かって言うと、前作もそうなんですが2階の廊下の隅っことかにお花が生けてあるんです。
床の間でもなんでもないのにお花を生けるとか、それだけの嗜みがあるご家庭なんでしょうね。
若尾文子は前作と比べると、数ヶ月の違いなのに輪郭がシュッとして、大人っぽくなっています。
若尾文子の家庭教師になるのが同級生の南田洋子のおうちに下宿している医学生です。
南田洋子は母子家庭育ちなんですけれど、母親役は三宅邦子。
三宅邦子はかえるちゃんいちおしの女優さんで、小津安二郎の映画の常連の女優さんですね。
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決して美貌の女優さんではないんですが、広い額が聡明そうで清潔感のある印象の女優さんです。
主役級の華があるわけではありませんが、出てくると安心感のある女優さんですね。
三宅邦子は感情をむき出しにするような役はしない人かと勝手に思っていましたが、この作品では夫と死別して、彼氏ができたけど娘に再婚したいと言い出せない母親役です。
南田洋子は同居の従兄弟である医学生が好きなんですが、彼が若尾文子の家庭教師になったことでモヤモヤした上に、母と彼氏の接吻を目撃してしまいやはりおうちに居場所をなくして、みすみす不良学生に犯されてしまうんです。
そのことで自分を責めているのに、ありえないことに不良学生はゴムなしでやっちゃってたから南田洋子は妊娠しちゃうんです。
妊娠が学校内でも噂になって、南田洋子は睡眠薬自殺を図るんです。
当時は睡眠薬で死ねる時代だったんですよね。
発見が早かったので命は取り留めたんですが、学校の創立記念日の舞台で演劇をしている最中に再び南田洋子は倒れて、流産をしちゃいます。
手術をして助かったんですけれどね。
後半、南田洋子の同級生として嵯峨三智子が存在感を出しています。
仲違いした若尾文子と南田洋子の間を取り持つわりと良い役です。
嵯峨三智子は70年代の化粧の濃い姿しか見たことがなかったんですけれど、化粧っ気のない女学生の役をしていると母親の山田五十鈴の面影がありました。
少し背が高くてプロポーションは3人の中で一番良かったです。
1953年の映画なのに教員が「オーミステイク」と言って笑いをとるシーンがあったのには驚きました。
オーミステイクは成瀬巳喜男の「めし」(1951)でも出てきたんですけれど、意外と息が長い流行語だったんですね。
オーミステイクと言ったのは1950年の「日大ギャング事件」の犯人の青年、山際が逮捕された時に発したとされる言葉です。
かえるちゃんは偶然なんですが、高校生の時に4プラの地下にあった古本屋で当時の雑誌を買って読んだのでこの事件は少しわかります。
当時この事件を中心に戦後の若者を称して「アプレゲール」と呼んでいたんですが続十代の性典の劇中にも「アプレ」と言うワードは登場していました。
かえるちゃんの中ではアプレと言ったら、先ほど登場したミゾケンさんの赤線地帯に出てきた京マチ子がお尻をプリプリ振って「アプレのプレプレよ」と言い放った印象が強いです。
劇中にハイキングのシーンがあるんですけれど、なんと裸馬移動なんですよ。
この時代の富裕層のレジャー感に度肝を抜かれました。
続続十代の性典
続いて1953年大映作品です。
こちらも新制高等学校が舞台なんですが、前2作と違うのは男女共学となっていることです。
話はほとんどが学校生活と男女混成で学生さんたちが出かけるキャンプ場での話になっています。
キャンプ場はロケだったんでしょうけれど、それ以外はセットでそれもあまり予算がかかっていない感じです。
ここでもやっぱり南田洋子は犯され役なんですが、それもキャンプ場での出来事で、男女の学生さんをお泊まり旅行に出させるご家庭の見識よ?と思いました。
南田洋子は商家のお嬢さん設定でわりとしっかりしたおうちなんじゃないかと思うんですが、娘の一生が台無しだと怒り狂う父親を諭す若尾文子のダンサーの姉役がなかなか良いことをおっしゃっていました。
まとめ
今回は映画「十代の性典」三部作についてご紹介してみました。
青春映画と言う明るさはあまりなくて、アプレゲール映画だなと思いました。
南田洋子が毎度犯され役で、ひたすら自分を責めて絶望し続ける姿が印象的でいた。
不同意性交はいつの時代であっても心の殺人であることには変わりがないんだと、改めて実感しました。
南田洋子が日活のスターになって、結婚してからテレビタレントとして大活躍だった、結婚後の輝いている姿からしかリアルタイムで見ていなかったので、こんな扱いだったんだと驚きました。
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